Tales from Book Apple

2015年8月27日 (木)

Tales from Book Apple #14 Simply "Red"

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中学生の頃、生まれて初めてのバンドを結成しました。

メンバーのお父さんが建築業をやっていて、資材置き場のプレハブをスタジオとして使わせてくれました。

中学生にとっては結構な道のりを、メンバーと楽器を担いで自転車を連ねた放課後。

僕の中では、スティーブン・キングの「スタンド・バイ・ミー」的な風景として記憶に刻まれています。

クーラーなんてもちろんない密室で、それこそ全身汗だくになりながら練習した日々。

それまで一人でギターを弾いていた僕にとって、それは新鮮でただただ楽しい時間でした。

芸術的な意味合いや表現なんてもちろん考えていなかったし、もっと演奏したいという欲求と、メンバーと音を合わせて音楽が生まれる事への純粋な喜びに突き動かされていました。

複雑な色彩やタッチは知らなかったかもしれないけれど、頭の中にある理想に迷いはなかったし、そこへと向かうエネルギーはとても大きかったように思います。

Simply "Red "

昔を懐かしむという意味ではなく、僕はそのエネルギーのありかたを取り戻したい。

簡単なことではないかもしれない。

でも、とても重要なことだと思うのです。

NEXT ORDERの愛奏曲としてご存知の方も多いと思いますが、このアルバムではアコースティックギターとループディレイを使って演奏してみました。

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2015年5月 9日 (土)

Tales from Book Apple #13 "Invisible #1"

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誰にでもそんな感覚はあるものなのかもしれないけれど、僕は音楽を聴いたり演奏したりするとき、色そのものや変化を続ける色彩群、何らかのフォルムや構造物のようなものを感じます。
とにかく視覚的なイメージが強く刺激されるのです。
そのことがずっと不思議で、20代の頃、何かその関係性をつかむことはできないかと考えていた時期があります。
虹は光がプリズム効果によって分解されて生まれる現象です。
光は波形であり、その波長によって色が認識されることは、同様に波形から生まれる音と本質的に同じなのではないかと思うのです。
虹を構成する赤から紫までの7色も、限りなく自然発生的な音階の7音と美しく韻を踏みます。
そして、どちらも手を触れたり所有することのできない、その瞬間にだけ生まれ消えてゆくもの。

そんな想いからアルバム “Light is decomposed into fragments” - Priority (2000年)が生まれました。
虹の7色をテーマに、そして目に見えない赤外線、紫外線を含めた全9曲で構成されています。
寺島直樹、森崇という素晴らしいミュージシャンと出会い、映像的な音楽を目指してループやサンプラーを駆使して活動したことは、その後の僕の大きな礎のひとつとなりました。
このアルバムはその後フランスのレーベルから再発されています。
“Invisible #1” は、冒頭を飾る赤外線をイメージした曲です。
今回のBook Appleでは、アコースティックギターで弾いてみました。

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2015年3月19日 (木)

Tales from Book Apple #12 "Toward Invisible"

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少し個人的な話になるかもしれませんが、僕は演奏する時、いつも観客の方々の空気感やエネルギーに少なからず影響を受けます。

たいていはいい意味ですが、時には良くない方向へ向かってしまうこともあります。

ミュージシャンのなかには、自らの表現の前に観客は無関係だという人もいるかもしれませんが、少なくとも僕はそうではありません。

ライブ演奏に関しては、空間そのものや、その場に居合わせるすべてのひとが持ち込んだ様々な要素が互いに作用しながら、音楽が形成されていくのだと思っています。

決して比喩的な言い回しとしてではなく。

しかし同時に、即物的にミュージシャンと観客、人と人が反応しあうことだけでいい音楽が生まれるのかというと、そうとは言えない気がします。

そこには何か目に見えないものが介在する、あるいは存在する必要があるのだと思います。

それは、ミュージシャンにとっては「なぜ音楽を演奏するのか」という根源的な存在意義のようなものであり、これを持ち込むことはミュージシャンの使命だと僕個人は考えています。

もちろんそれは画一的なものであるはずはなく、ミュージシャンの数だけ異なる「何か」なのでしょう。

だからといって誰かに何らかのイメージなどを強要するべきではないと思うし、有機的で自発的な反応を互いに共有することができたなら最高です。

本当に大切なものは「目に見えないもの」であるべきなのです。

そしてそれは僕にとって不可欠な初期エネルギーのようなもの。

エネルギー保存の法則は音楽にも成り立つと思います。

良い初期エネルギーがなければ、美しい放物線を描くことはないのです。

僕にとっての「目に見えないもの」を感じていられることは、とても大きな幸運です。

これから先も、決してそれを見失わないでいたいと願っています。

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2015年1月27日 (火)

Tales from Book Apple #11 "Scope for Imagination"

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小学生の頃から、僕は周囲とどこか上手くなじめないところがあって、いつも自分を異物感のある存在として感じていました。

「男らしさ」とか「みんなと同じ」というような感覚に強い違和感を持っていて、結果としてひとりで想像の世界に遊ぶことが多かったように思います。

小学校4年生から5年生にかけて、親の仕事の都合で少しの間イギリスのブライトンという街で過ごしました。

日本人学校ではなく、現地の小さな普通の学校に通ったのですが、その経験はその後の僕に決定的な影響を与えることになりました。

初めて自分の異質さを感じることがなかったのです。

クラスには様々な人種、宗教を持つ生徒たちが混在し、本当に小さな学校だったので、他学年が同じ教室で授業を受けることも多く年齢もばらばら。

ひとりひとりがあまりに個性的で、自分が他人と違っているのは当たり前だし、そもそも誰もそんなことを考えてもいませんでした。

いい友達も何人かできたし、初めて女の子から告白されたりもしました。

イギリスでの生活は僕にとって、かけがえのない美しい記憶として心に刻まれています。

日本へ帰ってくると、僕は「イギリスからの転校生」ということになって、異物感は最高レベルに達しました。

辛かったというほどではないけれど、自分の個性を考え、誰とも違う自分だけの生き方をしたいと強く思うきっかけとなりました。

ちょうどその頃に出会い、それ以来いまだに何度も読み返してしまう本が、L・M・モンゴメリの「赤毛のアン」です。

初めて読んだとき「これは僕だ」と思いました。

もう少し正確に言えば、アンほど純粋に自分を表現できない僕は、どこまでもまっすぐなアンに憧れを抱いたのでしょう。

年齢を重ねて読み返す度に、新たな角度から感動する自分に気付きます。

アンは「想像の余地 “Scope for Imagination”」を愛しています。

「想像の余地」がないものなんて、そんなつまらないものはないのです。

音楽もまったく同じだと思います。

僕は想像の余地のない音楽なんて想像できません。

音楽は演奏するのも、聴くのにも大きな想像力を要求します。

多くの人がもっともっと想像力を信じたなら、この世界はずっと平和で希望に満ちたものになるはずなのに。

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2015年1月25日 (日)

Tales from Book Apple #10 "Room to Move"

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作曲をするとき、たいていの場合タイトルが先に決まります。

印象的な言葉が思い浮かんだり出会ったりして、その言葉を咀嚼し想像を膨らませているうちにメロディーが生まれてくる感じです。

純粋な音楽的発想が曲という形をとることはそれほど多くない。

僕の場合、それは即興演奏へと向うエネルギーとなっている気がします。

どうしてこうなってしまったのか自分ではよく分からないけれど、とにかくまず言葉ありきなのです。

“Room to Move”という言葉は、レイ・ブラッドベリの短編小説のタイトル “Where All Is Emptiness There Is Room to Move”として出会いました。

直訳するなら、「すべてが空っぽな場所には動く余地がある」。

実はこの小説の内容はすっかり忘れてしまって思い出せないのですが、このタイトルだけが、ずっと頭に引っかかっていました。

このことは僕が音楽に向う上での基本姿勢でもあります。

沈黙、静寂があるからこそ音楽に力が生まれるのだと思います。

そして沈黙の持つ大きなエネルギーに匹敵するような音を見据えて、大切に演奏していきたい。

演奏が終われば、音楽は空気のなかに消え去り、曖昧な記憶だけが残る。

あくまで個人的な精神性のなかでのみ存在し、 決して所有したり手を触れたりはできないもの。

音楽は本来そういうものであり、そのことが最大の美しさだと信じています。

街へ出るとあらゆる場所で、あまりにもたくさんの音楽が溢れています。

重なり、混じりあい、どこまでも追いかけてくる音楽は、もはや暴力的でさえあります。

そんな場所には新たな音楽が生まれる余地なんてないと思うのです。

この曲はタイトル曲として、”Room to Move”(VOS 636)にも収録されています。

メンバーは山本昌広(アルトサックス)、田中信正(ピアノ)、千葉広樹(ベース)と僕のカルテット。

大きなジャズフェスティバルの翌日、少し寂しげな横浜での初顔合わせライブ盤です。

そこにはたくさんの”Room to Move”が存在しました。

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2015年1月 9日 (金)

Tales from Book Apple #9 "Double Dozen"

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"Dozen"(ダース、12)という数字には、何か強い引力を感じます。
一年は12ヶ月だし、星座や十二支、時間の単位も12の倍数。
英語の数字も12までは固有の名前があって、13から -teenとなる。
そして何より音楽の音階も基本的には12音程の組み合わせで成立している。

きっとそこには不思議な意味があるのだろうと思います。
ちなみに僕が一番好きな数字は「6」です。
6月生まれだからという面白くもない理由からだけど、「6」が最小の完全数だからというのも大きい。

「6×2=12」
12はサブライム数というのだそうです。(知らんけど)


神戸BIG APPLEの24周年にあわせて作曲したのがこの曲”Double Dozen”です。

十二音技法による、2組の異なる音列の組み合わせで出来ています。

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2014年12月28日 (日)

Tales from Book Apple #8 "Falling Summer Rain"

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バンドが本当の意味でバンドとして成立するには時間がかかるし、それが長く持続することはまったく奇跡的なことだと思います。
20才前後のころ数年間やっていたバンドがあります。
僕がオリジナルのインスト曲を中心とした即興的な音楽に本格的に取り組み始めたユニットでした。
ベーシスト畠中敏、ドラマー松田”GORI”広士とのトリオで、クリエイティブな音楽を目指して手探りながら奮闘し、語り合い、多くの時間を共に過ごしました。
僕にとってはとても大切な時間であり、その中から生まれた音楽は荒削りであってもその瞬間にしかないような輝きを持っていて、この時期に築いたものはそのまままっすぐに今の自分の音楽に引き継がれているような気がします。

そんな時間はあまりにも突然に断ち切られました。
2月のある日、バンドで2度目のレコーディングの最中に、ベーシスト「はっちゃん」は交通事故で僕たちの前から旅立ちました。
その事実を客観的な現実として受け入れることが僕にはなかなか出来ませんでした。

若かった僕は、その喪失感や悲しみを誰かと共有することが出来ずに、上手くは言えないのですが、自分だけのものとして独占したいというような不純で自分本位な感情にずいぶんと苦しみました。

その数ヶ月後には、僕は海外へ渡り数年を過ごすことになります。

今思えば、はっちゃんには様々な場面で、ものすごく助けられました。
深い悲しみは大きなエネルギーともなり得るということをはじめて知りました。

こういうことを言っても良いのかどうか僕にはまったく確信が持てませんが、はっちゃんとの別れがなければ今の僕は全然違っていたのだろうと思います。
数年前、事故から20年が経って、ご両親と共にはっちゃんのたくさんの友人たちが集う機会がありました。
その時に、集まったひとりひとりがそれぞれのはっちゃんを抱えて20年を生きてきたのだということを遅ればせながらに知り、自分の小ささを痛感しました。
それくらいにはっちゃんは大きな存在だったのです。
そしてこの曲「Falling Summer Rain」が生まれました。
はっちゃん、ありがとう。

「Falling Summer Rain」は、僕の大好きな本「若草物語」のなかで、ジョーが失った妹への感情に苦しみ、そして姉妹たちのことを想って書いた詩のなかの言葉です。
この詩がきっかけとなってジョーの人生は再び前向きに歩み始めるように僕には思えます。

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2014年12月26日 (金)

Tales from Book Apple #7 "B-612"

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ライブ終演後などに、「好きなギタリストは誰ですか?」と聞かれることがよくあって、それがどんな文脈からの質問かにもよるんだけれど、返答にすごく困ってしまいます。

「最近読んだ本は?」とか、「記憶に残る風景ってありますか?」って聞かれることはほとんどない。
僕の音楽を作り上げているもとになるのはそういうことの方が大きいと思うんだけど。
決して比喩的な意味ではなく。
実際には好きなギタリストはたくさんいて、嫌いなギタリストを見つけることの方が難しいくらいです。
インスピレーションや影響を受けるのは、もっと身近な共演者や友人(ギタリスト、音楽家に限らず)であることのほうが多いかも。
なので誰かひとりのギタリストの名前を挙げることは、どうしても不正確な気がして抵抗があるんです。
僕がギターを始めたきっかけとなったのは、中学に入ってすぐの音楽の授業。

「クラシックギターを弾いてみよう」というような時間があって、初めてギターを手にした瞬間、身体中をビリビリと走る「これだ!」という感覚がありました。
その興奮は今も鮮明に覚えています。
ギターという楽器との出会いそのものが始まりだったのです。

その時点で誰か絶対的なギターヒーローがいたわけではなく、その後ギターと自分の関係性を巡っていろいろな素晴らしい音楽と出会ってきました。
ジャンルという概念にとらわれたことはなく、音楽をカテゴライズすることの意味は今もよく分かっていません。
音楽を系統立てて聴いたり、知識として受け入れることがどうも苦手なようです。
ですから、自分を例えば「ジャズ・ギタリスト」と位置づけることにはものすごく違和感があります。
できればずっと、ただ僕というひとりのギタリストでいたいと思っています。
それはとても難しいことですが。

子供の頃に読んで、その後の自分の人格形成に決定的な影響を与えた本が何冊かあります。
「星の王子さま」もそんな本のひとつ。

読み返すたび、新たな感動とともに、心の中の奥深い部分から救われるような気持ちになります。

「たいせつなことはね、目に見えないんだよ」

小さい頃、喫茶店なんかに置いてある角砂糖の包み紙を集めていたことがあります。

世界の名所が綺麗に印刷されていて、眺めていると想像のなかで世界中を旅している気持ちになりました。
その包み紙の価値とか、集めることの意味なんて考えたこともなかったけれど、それは僕にとって紛れもない宝物でした。

音楽も同じなんじゃないかなと思います。
意味や価値を求めてしまうと、一番大切な輝きが失われてしまう。

他の誰にも意味はなくとも、自分にとって大切な一輪の花を持っていられるかどうかだけが、本当に「たいせつなこと」。
B-612は、1909年に一度観測されたきりの、王子さまのふるさとの星です。
名前なんてどうだっていいのですが、名前がないと分からないおとなの人のために。

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2014年12月12日 (金)

Tales from Book Apple #6 "Mood for Red"

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トルーマン・カポーティの中編小説「ティファニーで朝食を」のなかで、主人公のホリー・ゴライトリーは度々”Mean Reds”という言葉を口にする。
ただ哀しい気持ちの「ブルー」とは全然違って、その「いやな赤色」は、「怖くってしかたがなくて、でも何を怖がっているのか自分でも分からない」というような気分。
そんなとき、ホリーはタクシーに飛び乗ってティファニーへ行く。
そこではそんなにひどいことは起こらないと思えるから。
とても印象的なシーンです。
だけど、そんな赤色気分も時には悪くないものだと思う。
音楽、とりわけ即興演奏をするとき、何が起こるか分からない不安な気持ちは同時に精神の高揚感でもあって、ある程度は必要なものでもあるはず。
満ち足りた安心感からは決して生まれ得ない音が存在すると思うのです。
“Mood for Red”はそんなことを考えながら作曲しました。
神戸BIG APPLEの20周年のために作曲し、同名の記念アルバム「Mood for Red(DROPS TRIO - 2009)」を発表しました。

ティファニーとはほど遠いBIG APPLEの店内は、僕にとってまさに赤色気分な空間。
いろんな意味で不安要素満載なんだけれど、奇跡的なバランスを保っていて、ある種の人々にとってはこの上もなく心地よい場所です。

 
「いやな赤色」に心が染まったら、7番のバスに飛び乗ってBIG APPLEへ!

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2014年12月 5日 (金)

Tales from Book Apple #5 "Night Tree"

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もうずっと前のこと、「夜の樹」というタイトルに強く惹かれてトルーマン・カポーティの短編集を手に取りました。
主にヨーロッパの古い小説ばかり読み漁っていた僕にとって、アメリカの近現代の作家の作品に興味を向けてくれた一冊だったかもしれません。
カポーティの文章はとても音楽的に響きました。
暗示的でパーソナル、ひとつひとつの言葉、その連なりがとても美しく、それらの総体として物語が形成されて行く。
もはや音楽そのものだと言ってもいいくらいに。
そのことは後に原書で読み直したときにさらに強く感じました。
以来、「夜の樹」というタイトルで作曲したいとずっと考えていました。
その言葉をあたため続けて、あたためすぎてハードルがかなり高くなってしまった頃、熟した果実がぽとりと落ちるようにメロディーが生まれました。
僕にとってとても大切な一曲です。
カポーティの原題は"A Tree of Night"ですが、"Night Tree"としました。
僕の中で育った言葉は、まったく別のイメージとして定着してしまったから。
 
夜の樹は不思議な力を持っています。
夜の樹の周りに集まる人々は、それぞれの人生の背景を抱えながらも、性別や年齢、国籍を超えて図らずも深い魂の交流を持ってしまう。
ほんのひととき何かを共有することで、少しだけ変化した自分を感じながら、あるいは変化への希望と共にそれぞれの日常へと戻っていく。
それはライブハウスに集うミュージシャンと観客の風景とごく自然に交錯します。
そして僕はあるひとのことを想います。

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