Grand Touring 2008

2008年9月23日 (火)

Arles

Arles4

ついにアルルへとやって来た。
この旅唯一の動機付けとなった目的地があるとすれば、この町。
ゴッホ、ゴーギャンが暮らし、狂気へとつながる壮絶な時間を共有した場所。
代償に値する作品たちが生まれた場所。
彼らはきっと友情を超えた、人間としての最深部に触れあう経験をしたのだろうと思う。
そしてそれは、ゴッホが南仏の光と影を求めてアルルへとやってこなければ、起こりえなかったはず。
その場所に立ってみたいとずっと思っていた。

予想に違わずアルルは美しい町だった。
円形闘技場や古代劇場が残り、街並みはまさにプロヴァンスを象徴する色彩で溢れている。
「夜のカフェテラス」のモデルとなったカフェや、ゴッホが収容された病院を訪ねる。
ゴッホが歩いた場所に立っているという事実に深く感動するが、同時に観光スポット化されていることにかすかな違和感を覚える。
それは当たり前だし、しょうがないことなのだけど。
そして気づいた。
これまで旅してきた南仏の風景、音、匂い、そして何より信じがたく強烈なこの光こそが僕の求めていたものだったのだと。

日が暮れて、光が夜にその支配力を譲る。
アルルの夜空はなんとも形容しがたい美しさで僕たちを包んでいた。
深い青、黄、緑。
ゴッホの色。

Arles1 
Arles3

CafevangoghEspacevangogh2Espacevangogh
Pontvangogh2PontvangoghAmphitheatre

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2008年9月22日 (月)

St-Remy-de-Provence

Olive

ゴッホの足跡を訪ねてサン・レミ・ド・プロヴァンスの町へ。
少し歩けばオリーブ畑、糸杉、アルピーユ山脈の白い影など、晩年近くのゴッホが描いた風景がひろがる。
南仏の強烈な光のなかで見るそれらの風景は、まるでゴッホの絵そのもの。
あの個性とエネルギーに溢れる筆致を目の当たりにする気がした。
ここをゴッホが歩いたのかと思うと、やはり感慨深い。
純粋なるファン心理。

それにしても、とんでもなく暑い。
気温は40度を超えている。

アルルへと向かう道中、フォンヴィエイユに立ち寄る。
ドーテの「風車小屋だより」で知られる小さな村。
ドーテの風車はアルピーユの丘の上で、空の青とくっきりとしたコントラストを描いていた。
はてることのない夢想に耽るように。

Windmill

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2008年9月21日 (日)

Tarascon

Tarascon

ドーテの小説「タラスコンのタルタラン」が頭にあって訪れることにした小さな町タラスコン。
ここで思いがけず、深く心に残る経験をすることになる。

ローヌ川を渡ってタラスコンの町にはいると、突然時間は中世へとタイムスリップする。
川の畔にはお城が建ち、古びた教会を石畳の路地と美しい家々が雑然と取り巻く。
もう泊まるしかないと思い、おそらく町に一軒かぎりという感じのホテルに部屋を見つける。
ホテル一階のオープン・カフェで夕食。
観光客の姿はなく、地元のおじさん、おばさんたちが思い思いに食事やワインを飲み、静かに談笑している。
一人きりの給仕は初老のおじいさん。
彼が本当に素晴らしかった。
英語が話せないのだけれど、僕たちがいい時間をすごせるように誠心誠意でコミュニケーションしてくれる。
真心のこもった不器用さが暖かく僕たちを包む。
上手く言えないが、古き良き時代のウェイター・シップを見る気がした。
食事も終わりに近づいた頃、彼がどこからか英語を少し話せる友達を連れてきて、僕たちに何か伝えるように促している。
その一言は"Am I polite?"
感動。

食事も終わり、少し散歩でもと歩いてみる。
すると家々から子供たちから老人まで、続々と人びとが出てくる。
そしてどうやらみんな同じ方向へ向かって歩いているらしい。
興味津々でついて行くと、ローヌ川のほとりへとたどり着き、みんなてんでに座り込む。
僕たちも橋の上に場所を見つけ、しばらく待つ。
何となく予感はし始めていた。
花火!
ローヌの上に咲く花火は、日本のものと比べたら、やはり少し小振りなのかもしれない。
それでもそれは、とてもとても美しく心に染み込んできた。

Fireworks

花火が終わると、また人びとが同じ方向へ向かって歩き出す。
もう迷いはなく僕たちもその方向へと流されていく。
目的地は町の中心にある広場。
夕方そこを通ったときには気づかなかったのだけれど、今は広場がいわゆる「移動遊園地」と化している。
メリーゴーランドや、得体の知れない絶叫マシン、射的、カジノ・マシン、あやしげな屋台など。
そして子供たちが、ものすごいハイテンションで遊び狂っている。
なんだかなつかしい感じがするような、純粋な興奮が伝わってくる。
その渦にすっかり呑まれた僕たちの精神年齢も、あっという間に下降。
楽しすぎる。
ようやく話を聞くと、どうやらその日は地元の夏祭りの最終日だったらしい。
そんな日に美しきタラスコンと巡り会えた幸運に感謝。

Lunapark

翌日、ホテルを出ると、昨夜給仕してくれたおじいさんが窓を拭いていた。
手を振ると、おじいさんは僕たちの姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれた。

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2008年9月19日 (金)

Luberon

Luberon

ヴァントゥー山を駆け抜けて、リュベロンの小さな村々を訪ねる。
ソーのあたりはラベンダー街道と呼ばれ、見渡すかぎり紫の海がひろがる。
運転しながらも、その香りは車内へ忍び込んでくる。

丘の頂の古城を石造りの家々が折り重なって取り巻くゴルド。
その独特な景観に思わず息をのむ。
まるで村全体がひとつの生きた要塞で、プロバンスの色彩のなかにふわりと浮かんでいるような錯覚を覚える。
明日くればもうここには存在しないかもしれない。
ふと、そう思った。

Gordes

それにしても、いたるところで蝉が鳴いている。
それは空気を濃密に満たし、手を伸ばせば触れることができるような声。
蝉時雨。

アヴィニヨンの橋に立ち寄り、ローマの水道橋ポン・デュ・ガールの悠然たる姿に圧倒される。

Pontdugard

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2008年8月11日 (月)

Orange

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いよいよ今回の旅最大の目的だったプロヴァンス地方へと入る。
いろいろ回り道をしたけれど、この地の太陽を浴び、光と色を感じることこそが僕たちを駆り立てたのだ。

オランジュは、かつてローマ帝国の重要な都市として歴史にその名を刻む町。
しかしその旧市街はあっけないほどに、こぢんまりとしている。
閑散とした石造りの路地。
ただ強烈な太陽だけが差し込み、街に光と影のくっきりとしたコントラストを描く。
観光地的な空気はほとんど匂ってこない。
まさに僕好み。

古代劇場を訪ねる。
それは紀元前1世紀末の建造物で、世界でもっとも保存状態のいいローマ遺跡なのだとか。
悠久とも思える時の重みに、ついつい思考が内省的な方向へと流される。
多くの犠牲と弾圧にまみれながらも、この地までその痕跡を残すローマ帝国。
そこには少なくとも人間の意志と生きるエネルギーに満ちた数知れぬ人生があったのだろう。
二千年の時を隔てて、飛行機と車を使ってやって来た東洋人が遺跡にたたずみ、その姿に感嘆している。
おかしなもんだな。

ちょうどその劇場では、小学生くらいの子供たちのコーラスを含めたオペラのリハーサルが始まっていた。
音楽監督らしき男性がしきりに怒声をあげている。
とても恐そう。
最初は遠足気分ではしゃいでいるように見えた子供たちの動きと表情が、みるみる真剣味を帯びてくる。
その歌声はとても美しく古代劇場の空間に響き渡る。
もちろんマイクなどはなく、小さなアップライトピアノ一台での伴奏。
野外であるこのオープンな空間に、これほど豊かに音が響くことにかなりの衝撃を受ける。
まるで魔法を目にするよう。
リハーサルは進み、大人の歌手たちも登場する。
それぞれほんの一節歌うだけだったけれど、歌声はますます朗々と渡っていく。
その音たちは、天へと昇っていくようでもあり、同時に天から降ってくるようでもある。
気がつけば、リハーサルは終了模様で、すでに何時間かが経過していた。
思いがけず、いい経験ができた。
ついている。

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2008年8月 8日 (金)

Annecy

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全く下調べも出来ずに旅立ってしまったので、行き先や宿は完全に行き当たりばったり。
幸運にも、結果としてはそれが大正解となった。
スイスから再びフランスへ入り、通行止めになった道路を迂回したりしながらも数時間走っていると、突然美しい湖畔に。
その湖面は信じがたい色彩できらめいている。
微妙なグラデーションに揺れる無数の青と緑のモザイクは、今まで目にしたことのない水の色。
車の窓から眺めただけで、今日はここに泊まろうと決めた。
アヌシー。

小さなオーベルジュに部屋を見つける。
湖面を眺めながらの食事が素晴らしい。
時間と共に刻々と表情を変える水面。
周りのお客さんたちのリラックスした幸福な空気。
そこには、ただおいしいものを食べるということ以上の意味がある。
すべてが完全に近いバランスを保っている。

僕の食に対する欲望はかなり低いのだろうと思う。
はっきり言えば、普段はあまり食べない。
それでもこの旅での食事はどれもこれも素晴らしかった。
はずれなし。
年中痛む胃も不思議と機嫌良くしていてくれた。
おいしいワインと食事がこれほど幸せなものだとは。

帰ってからいろいろと調べてみると、アヌシー湖はヨーロッパ随一の透明度を誇るらしい。
アヌシーの町にもたくさんの見所があって、そのほとんどを僕は見逃したようだ。
それでも僕はこの上もなく満足している。

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2008年8月 3日 (日)

Mont Blanc

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楽譜書きに愛用している万年筆程度の知識しかなかったモンブラン。
こうして間近に氷河が迫るヨーロッパ最高峰の姿に完全に言葉を失う。

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Du Grand Saint Bernard

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アオスタの町でアルプス山脈を車で越えることが出来る峠道があることを知り、チャレンジせずにはいられなくなった。
その行程は、ただただ絶景が続く。
それは筆舌に尽くしがたく、写真では到底その雄大さを残すことが出来ない。
大げさではなく、生きていて良かったと思える瞬間が連続する。
世界にはこんな風景が存在し、そこにはやはり人びとの生活が息づいているということに、凝り固まった脳みそのしわを引き延ばされるような爽快感を覚える。
まだ雪の残るセントバーナード峠で国境を越えスイスへ。
風景が一変する。

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2008年7月18日 (金)

Aosta

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ここまで来るとは思ってもいなかった。
どうしてもアルプス山脈を間近に眺めてみたくなったのだ。
モンブランやマッターホルンに囲まれた渓谷にアオスタの町はひっそりとたたずむ。
歩いてすぐにひとまわりできてしまうほどの小さな町。
だけど町中ににローマ時代の遺跡が残り、その歴史の深さにしばし言葉を失う。
ローマ帝国といえば2000年以上も昔なんだから!
そしてなにより、目がよくなったのかと錯覚しそうなほどに澄み切った空気。

町のツーリスト・インフォメーションで教えてもらったホテルで一騒動。
ロビーのおばさんが全く英語がダメで、イタリア語か少しのフランス語しか話さない。
こんな時、我が相棒ミキコは真価を発揮する。
辞書を片手に身振り手振りで体当たりのコミュニケーションを図る。
なんとか無事に値段交渉も済ませ、チェックイン完了。
なんでも、英語の話せるおばさんの息子さんが、今は外出中だが夜には帰ってくるらしい。
どうしてこんなにも意思の疎通が果たせたのかは、いまだに謎である。
おばさんともすっかり仲良くなってしまった。
僕にとっては、旅の実感の湧く楽しいひとときだった。
今回の旅で、何度となくこんな場面があった。
そのたびに、ミキコはあっという間に相手の心をつかんでしまう。
ごく自然に。
それは言葉が通じないからこその、純粋なコミュニケーション。
僕にはない才能。

素敵な料理店で、ハムやチーズなどの地元料理を堪能し、ワインでほろ酔いになった僕たちは、二人揃って持ち前の方向音痴を遺憾なく発揮し、ホテルと反対方向へ歩き出す。
そのことに気づくのがあまりにも遅すぎて、真っ暗な山道を一時間以上も彷徨うことになる。
いつものことです。

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2008年7月16日 (水)

Genova

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イタリア最大の港湾都市ジェノバ。
ヴェッキオ港を眺めながら市内へ入ると、さすがに交通量も多く、モダンな市街に少し圧倒される。
駐車場を見つけ、徒歩で旧市街へと向かう。
旧市街へ一歩足を踏み入れると、カラフルながら古色蒼然とした建物に取り囲まれる。
薄暗く迷路のような路地を漫然とたどっていると、たちどころに方向感覚を失う。
でも僕はこういう街並みにより強く惹かれるようだ。
目的もなくただ歩くだけで、心が落ち着く。

ジェノバといえば、たしか「母を訪ねて三千里」でマルコの生まれた街だったのでは。
そんなことを考えながら歩いていると、どこからか手回しオルガンの音が聞こえてきそうな気がする。
この街からマルコはアルゼンチンへと旅立ったのか。

さぁ出発だ。いま日が昇る。

アンデスを目指すことはさすがに無理があるので、僕たちはこのあとアルプス山脈へと向かうことにした。

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